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東京高等裁判所 平成7年(ラ)197号 決定

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  抗告の趣旨

原決定(本件差押命令)を取り消す。

相手方の申立てを却下する。

申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

との裁判を求める。

第二  抗告の理由

別紙執行抗告理由書記載のとおり。

第三  当裁判所の判断

一  抗告人は、本件建物については、競売開始決定も、差押えもされていないから、相手方による物上代位権の行使は許されない旨主張する。

しかし、民法三七二条、三〇四条に基づく抵当権者の物上代位権の行使は、目的不動産についての抵当権を実行し得る場合であつても、これとは別に行使し得るものと解され、したがつて、抵当権に基づく物上代位権の行使に、競売開始決定や差押えの効力が生じていることを要するものでないことは明らかであり、このことは、抵当不動産の所有者の有する賃料債権についての物上代位であるか、抵当不動産の所有者から賃借した者の転貸料債権についての物上代位であるかによつて異なるものではない。よつて、右主張は採用できない。

二  次に、抗告人は、一覧表の転借人欄記載の者のうち丙川松夫、丁原(株)、戊田竹夫を除くその余の一五名の者(以下「一五名の者」という。)は、相手方が本件抵当権の設定登記を受ける前に締結された賃貸借契約に基づき本件建物の一部を占有するものであるところ、抗告人は、これらの者から賃借権の譲渡を受けた上で、改めてこれらの者に対して転貸したのであるから、相手方が抗告人の有する右転貸借関係に基づき取得した転貸料債権に対して物上代位権を行使することは許されない旨主張する。

しかし、《証拠略》によると、本件債務者兼所有者である戊原株式会社(以下「戊原」という。)は、本件抵当権設定登記の後である平成六年に至つて、抗告人に対し、賃貸人たる地位を譲渡したことが明らかであり、《証拠略》も、同様の法律関係を表示していることが認められ、抗告人の右主張に沿う一五名の者から抗告人に対して賃借権の譲渡があつたと認めるべき証拠はない。そして、抗告人が自らを賃借人兼転貸人と称していることからすると、抗告人は、戊原から本件建物を一括して賃借するとともに、一五名の者に対する賃貸人たる地位の譲渡を受けたことにより、一五名の者に対する転貸人として転貸料債権を取得したものと認定せざるを得ない。

そこで、この事実を前提として判断するに、民法三〇四条を抵当権に準用するに当たつては、同条の「債務者」中には、抵当不動産の所有者及び第三取得者のほか、少なくとも、抵当不動産を抵当権設定の後に賃借した者も含まれ、したがつて、抵当権設定後の賃借人が目的不動産を転貸した場合には、その転貸料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権が及ぶと解するのが相当である。

これを本件についてみると、抗告人は、本件抵当権設定後に、債務者兼所有者である戊原から賃借権を取得したというのであるから、これを転貸したことにより取得する転貸料債権については、抵当権に基づく物上代位の対象になるというべきであり、このことは、抗告人との間で転貸借契約を締結した転借人らの転借権が、本件抵当権設定前の賃借権に由来するか否かとは無関係である(抗告人が掲げる東京地方裁判所平成四年一〇月一六日決定(同裁判所平成四年(ソラ)第一四五号)は、本件とは、事案を異にする。)。

してみると、原決定には、なんらの違法事由もない。

第四  結論

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担について民事執行法二〇条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 森脇 勝 裁判官 高橋勝男)

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